オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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けれど、バスルームの壁にドドンと立て掛けられた背丈もありそうなマットに目が留まり、思わず首を捻る。
「……なんでマットがあるんでしょう?」
「おそらく、男女が抱き合うのはベッドの上ばかりではないという事だ」
っ!! 明彦さんから返った答えに、目が点になった。
「そ、そうでしたか。すみません、流石にちょっと、そこまでは考えが至らなくて……」
私はしどろもどろに告げるのが精一杯だ。
「なに、この場所自体がそういった場所なんだ。疑問があれば聞いてくれ。とはいえ、情けない話だが俺もこういった場所には疎い。全てに答えられるかは分からんが……」
明彦さんの台詞は、最後の方が尻つぼみに霞む。
「いいえ明彦さん! ちっとも情けなくなんてありません。こういうところに精通していると言われるより、私はずっといいです。すごく、素敵だと思います!」
気付けば私は、力を篭めて言い切っていた。
明彦さんは、私の勢いにポカンとした様子だった。
「そうか」
そうしてパチパチと目を瞬いて、ちょっと照れくさそうに微笑んだ。
明彦さんが見せる表情の全てに、好意的な感情が湧く。多くの時間を共に過ごせば過ごすほど、そんな気持ちが募っていく。
……想いが四年の年月を経て、溢れそうなくらいに育っていた。
「月子、ひと通り部屋も見て回った事だしそろそろ出るか」
「はい! ここを出たら、今度は701号室ですね!」
だけど今は、目の前の事を精一杯熟すのが最優先!
今するべきは、ラブホテルの徹底的なリサーチだ!!
「ん!? まだ行くのか?」
前を行く明彦さんが、ギョッとして振り返る。
「え? こうしてラブホテルの平均を知った訳ですから、次は当然、ハイクラスを見ますよね? それにこの部屋に入る前、『まずは』って事でしたよね?」
「……そういえば、そうだったな。よし! では月子、今度は701号室に行くぞ!」
「はいっ!!」
そうして意気込んでロビー階に向かった私と明彦さんだったが、なんと目当ての701号室は満室に変わっていた。
「……明彦さん、埋まっちゃってますね」
「ふむ。月子、これはきっと、今日はここまでにしておけという事だろう。お互い初めての場所の調査で、疲れていないと言えば嘘になる。それになんだかんだと時間も経ってしまっている。今日はもう、送っていこう」
「はい……」
私は若干の消化不良を胸に、明彦さんに肩を抱かれて車に乗り込んだ。
私はきっと、本心では望んでた。明彦さんと、もっと多くの時間を過ごす事を。
そして、もっと親密な時間を過ごす事を……。