オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

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「それってなんですか?」
「食べかけのアイスと、飲みかけのコーンスープの交換をしただろう? 交換して二つの味を楽しむ。俺にとっては初めての経験だったが、二倍に満たされたな」
 私はここで初めて、自分のした提案がいかに非常識であったかに思い至った。それというのも、あの時は本当に何の意図もなく、明彦さんに交換を提案していたからだ。
「弟達とは食べかけの交換を普通にしていますが、外でこれを人に持ち掛けるのは非常識でしたね。とはいえ私自身、誰彼構わず交換したいとは絶対に思いません。……だけど明彦さんには、無意識に交換を持ち掛けていました。なんて言うんでしょう、あの時は弟達に対するのと同じように、自然な流れでそうしていたんです。明彦さんが嫌な思いをしていなかったのなら、良かった……」
「嫌な思いなどする訳がない。……だが、誰彼構わず交換したいとは思わないというのには同感だ。食べかけを交換し、同じ味を二人で味わう。その行為にこんなにも満たされた心地なのは、その相手が月子だからだ」
 そして明彦さんが語る内容もまた、どこまでも私に都合よく、私を有頂天にさせる。
「明彦さん……」
 胸にじんわりと熱が灯る。灯った熱は、全身に巡る。同時に、明彦さんへの恋心も熱く膨らんで、苦しいくらいに私を苛む。
「さて、そろそろ到着だ。降りる準備をしてくれ」
 住み慣れた安息の場所であるはずのアパートを視界に捉え、胸に満ちるのは寂寥感。
「はい」
 明彦さんとの別れが寂しい……。しかし無情にも車はアパートの前に到着し、ゆっくりと路肩に停車する。
 私はシートベルトを外し、ドアに手を掛けた。
「月子、また」
 車から降りようとする私に、明彦さんが告げる。
 けれど、次を約束するはずの『また』が、今はどうしてか胸に切ない。
 心の奥、『また』と言って別れずにこのまま同じ場所に帰れたら……、そんな思いが浮かぶ。
「あー! 月子ねーちゃんが帰ってきた!」
「お兄さんに車で送ってもらってるぞ!」
「ねーちゃんだけズルい!」
 弟達の声に、ビクリと肩が跳ねた。
 声の方を見れば、私の帰宅に気付いた弟達が我先にとこちらに向かって駆けてくる。
 ……私、なんて想像をしたんだろう。
 弟達の姿を目にすれば、意識がスッと、今この瞬間に舞い戻る。
「今日はご一緒できてよかったです! 明彦さん、また!」
 感傷を振り切るように笑みをのせ、運転席の明彦さんを振り返って告げる。私の勢いに、明彦さんは少し驚いたように目を瞠る。
「ああ」
 けれどすぐに、ふわりと笑って応えた。
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