ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
3. 社内コンペ

翌月の全体朝礼で、デザイン企画部の部長の交代が発表された。予定通りにあやめが準備した花束を社長が井畑部長に渡し、新しく部長に就任した北見部長が演台に立った。北見部長は就任の挨拶を簡単に済ませると、社内コンペの案内を始めた。

「是非多くの皆さんにチャレンジしてもらいたい」と意気込んだ北見部長に、社内が浮足立っている印象を受けた。あやめは、飲食関連店のホームページが題材だと聞いて、そういえば、鎌倉の叔父の和菓子屋がイートインを始めると言っていたが、ホームページとか作ったのかな?と他人事のように考えていた。朝礼が終わり、総務課のフロアへ戻ると、課長が

「今朝の全体朝礼で発表があったコンペの話だが、うちからも参加するように、と北見部長からの伝言だ。せっかくの機会だから是非皆にチャレンジをしてもらいたいそうだ。興味のある者、チャレンジする者は、早めに私に知らせてくれ。」と言った。あやめは、たしかに異動願いを出す人たちに取っては、願ってもないチャンスだろうなと思った。その日の就業時間が過ぎ、いつも通り退社準備をしていると、

「吉田さん、ちょっと良いかな?」と課長に呼ばれた。あやめは、何だろうと思いながら課長の席へ行くと、

「今朝の話だが、君には是非出品してもらいたい。」と言われ、あやめは、今朝の話って何だ?と一生懸命頭を回転させながら何を出品させるのかを考えた。

「確かに君に今抜けられるのは痛いが、君の可能性を潰すわけには行かない。作業のフォローはするから是非前向きに考えてくれ。」とあやめの頭の整理がつかないまま、課長が言葉を続けた。あやめは、私が抜けるってどういうことだ?と思いながら、可能性、作業のフォローと頭のなかで繰り返し、やはり何のことだかさっぱりわからず、

「申し訳ありません、課長、今朝の話と言うのは、どの案件のことでしょうか?」とあやめは正直に課長に聞くことにした。すると、課長は少し驚いた顔をして、

「案件?いや、今朝の北見部長のコンペの話だ。」と言った。あやめは、あぁそういうことか、と納得し、

「お気遣いありがとうございます。ですが、コンペに出るなんて、私には恐れ多いです。」とあやめが答えると、

「だが、君は元々デザイン希望じゃなかったか?」と課長が言った。あやめは、確かに入社時の面接でそんなことを言ったかもしれないなーと思い出しながら、曖昧な返事をすると、

「異動願いを出さない謙虚な君にいつまでも甘えてるわけにもいかないからな。こっちのことは気にせず、力試しのつもりで是非出品してくれ。」と課長が言った。あやめは出品するつもりなど毛頭ないが、ここはお礼を言って退いておいたほうが早く片付きそうだと判断し、

「お心遣いありがとうございます。少し考えてみます。」と頭を下げた。すると、

「出品する人はたくさんいるだろうから、気楽に考えて進めてくれ。」と課長が言い、あやめは

「かしこまりました。」と退席した。あやめは適当にやってみたが難しくてできなかったということにしようと課長の言葉を真に受けずにいた。
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