前略、さよなら
「ボールちょうだい」
千代が両手を掲げて仁王立ちしているのを
しばし無視して
僕はボールをつきながら
空を見上げる。
綺麗ないわし雲。
涼しい風が吹いて髪を揺らす。
僕は拓海に1度だけでもいいから
バスケで勝ってみたくて
1人こっそり練習していた。
「陽、ボール!」
視線を戻し
バスケットボールを片手で
放り投げると
千代は飛びつくようにキャッチした。
「バスケットボールって苦手なんだよね。
なんであんなにゴール小さくしたんだろ」
千代はボールの軌道をイメージするように
シュートフォームを作って
片目を眇めている。
千代は僕と離れてから
随分と明るい人になった。
誰にでもよく楽しく話す人になった。