前略、さよなら


ふわっ、

と驚くほど体が軽い。


肉体は地を遠く離れる。


飛んでいるのかと思った。


ゴールリングが目の前にある。



___耳をつんざく急ブレーキの音


急に世界が暗転した。


リングが消えた。

ボールも消えた。


僕は勢いよく前方宙返りをかます。



着地。


見下ろすといつのまにか
足元には血だまりができている。


「千代?」


僕はそこにいるはずの
千代の名前を呼ぶ。


しかし返事はない。


「千代!」


ぱちゃり、

と音が応える。


僕は声にならない悲鳴をあげる。



どこからともなく

サイレンの音が聞こえて___

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