前略、さよなら


「真っ暗だね」

「うん。真っ暗だ」

僕は1年前の僕の言葉を
おうむ返しにした。


時旅神社の裏の山道を登っていく。

僕は1年後の世界に戻るために
祠へと向かっている途中だ。


「おつかれーす」

1年前の僕はふざけて笑う。


「自分と話すの
かなり気持ち悪いんだけど」

僕がそう言うと
何度も頷かれた。


それからしばらくして

「あ!道だ!!すっご!!!」

あの日のように祠への道を見つけた。

「本当にあったんだ!感動!」

1年前の僕は寂しさを
紛らわすように騒いでいた。


正直恥ずかしくなる。


それからだんだん祠が見えてくると
お互い無言になった。


これで、全て終わるんだ。
達成感がわいてきた。


僕は1年前の僕に向き合って
握手を求めた。

「ありがとな」

「こちらこそ」

僕達は握りしめあって肩を抱いた。


そして、次は祠。


夏の終わりは
ちょっとだけ寂しい。

でも、どうせ朝は来てしまうのだ。


1年後に戻っても
明日の朝起きても

多分きっと
僕は僕のままだ。


「神様。

ありがとうございました!


もう元の世界に戻してください」


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