もう一度、君の手にくちづけを。

ふと視界に入る恋人たちを見る。
皆手を繋いだり、腕を組んだり、幸せそうで寒さなど気にもとめない様子だ。

はー、と少しため息をつく。

こんなところまで来て、ただ虚しくなるだけだってわかってたのに。

うつむいて、靴を見る。
今日のために数日前に買った、まだ新しい靴。
予定では今は、紗和と二人でレストランのディナーへ向かっている途中だ。

あー……ディナー。

そこで、店を予約していたことを思い出す。
キャンセルの電話……面倒だな。ここですることもないか。でも早い方が店側も━━

左腕の腕時計で時間を確認する。18時23分。
予約は19時だ。まだいいか。家に帰ってから連絡しよう。

僕はしばらくここにいることに決めた。
幸せそうな人達に囲まれていると、自分も幸せなパワーを貰えるんじゃないかな、とか思った。

< 2 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop