もう一度、君の手にくちづけを。
ふと視界に入る恋人たちを見る。
皆手を繋いだり、腕を組んだり、幸せそうで寒さなど気にもとめない様子だ。
はー、と少しため息をつく。
こんなところまで来て、ただ虚しくなるだけだってわかってたのに。
うつむいて、靴を見る。
今日のために数日前に買った、まだ新しい靴。
予定では今は、紗和と二人でレストランのディナーへ向かっている途中だ。
あー……ディナー。
そこで、店を予約していたことを思い出す。
キャンセルの電話……面倒だな。ここですることもないか。でも早い方が店側も━━
左腕の腕時計で時間を確認する。18時23分。
予約は19時だ。まだいいか。家に帰ってから連絡しよう。
僕はしばらくここにいることに決めた。
幸せそうな人達に囲まれていると、自分も幸せなパワーを貰えるんじゃないかな、とか思った。