剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 純粋に異性との出会いやおしゃべりを楽しむ者がいる傍らで、まことしやかな黒い噂が飛び交い、駆け引きと腹の探り合いが行われる。

 会場には端にテーブルが設けられ、ワインと軽食が並び自由に取っていける仕組みだ。あとは好きに移動し、各々好きに過ごす。

 豪勢に吊るされたシャンデリアが真昼と見紛うほどの明るさと華やかさをもたらしていた。色彩豊富な女性のドレスが眩く、正装した紳士たちとの話し声が幾重にも重なり賑やかさを生む。

 セシリアは銀色の仮面をつけ、雑談に花を咲かす若者たちの輪の中に紛れ込んでいた。今宵の彼女は青いドレスに身を包んでいる。

 派手な装飾はなく胸元はシンプルだが腰回りから足元へと波打つように光沢のある生地が広がりを見せ、セシリアの白い肌によく映えていた。

 いつもまとめあげている髪はゆるやかにおろされ、彼女の肩のラインを金色の柔らかい髪が撫でていく。おしとやかな雰囲気よりも噂が好きそうな快活さを出すようセシリアは心掛けた。

 グラスを片手に持ち、さりげなく移動しながらお目当ての話題で盛り上がっていそうな集団を探す。

「アスモデウスにどこで会えるか知ってる?」

 ふとセシリアの耳に飛び込んできた会話に、彼女はそっと意識を向けた。菫色の仮面とドレスを着た女性が意気揚々と語っている。

「アスモデウスなんていないでしょ?」

 こわごわと話を聞いていた娘が聞き返すと、女性は口の端を持ち上げる。続けてしっかりと紅の塗られた唇がゆっくりと動き出す。
< 10 / 192 >

この作品をシェア

pagetop