剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「……にしても、面白くないな」

 不意にルディガーが口を尖らせたので、セシリアは我に返って彼を見た。下から向けられる視線は不満が込められている。

 セシリアは生真面目に返した。

「面白い話をした覚えはまったくありませんが」

「いつのまに彼とは名前で呼ぶ仲になったんだ?」

 飛んできた二の矢は予想外の方向からだった。誰が誰をというのは確認しなくてもすぐに理解できる。

「これは、その。私は彼の助手という設定で同行していたものですから」

 珍しくセシリアが動揺の色を見せたので、ルディガーがわずかに眉をひそめた。

「へぇ」

 なにかを含んだ笑みでセシリアを見上げる。セシリアとしては疚しいものはなにもないが、少しばかりジェイドに心を許しているのも本当だった。

 アードラーの副官としてはもう少し疑い深い方がいい。いつもの自分なら線引きをきっちりするのに、ジェイドに対してはそれがいささか緩んでいる。そこをたしなめられていると判断した。

「彼を信用しきったわけではありません」

「もちろん。その点は信じているさ。ただ君を医者の助手にした覚えはないからね。……セシリアは俺の副官なんだろ?」

 ルディガーがなにを言いたいのかが掴めない。それが柄にもなくセシリアの副官としての自信をぐらつかせる。

「そう、です。私はあなたの副官です……どんなことがあっても」

 付け足す形で告げたものの声には覇気がない。顔もうつむき気味になり、ルディガーは確認するように下からセシリアの顔を覗き込む。
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