剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 どんな状況でも、なにがあっても私はずっと彼の副官でいる。

 心の中で言い聞かせる。セシリアはぐっと握りこぶしを作り、決意を固めた。かわしていたルディガーと目を合わせ、しっかりと向き合う。

「あの、プライベートな内容なんですが、ひとつかまいませんか?」

 以前『プライベートには口出ししない』と言った手前、どうも気まずい。ルディガーは気にせず尋ね返してきた。

「改めてどうした?」

「元帥は今、恋人はいらっしゃるんですか? もしくは、その……結婚を考えている方とか」

「は?」

 歯切れ悪くセシリアの口から出た内容にルディガーは意表を突かれた。こんな世俗的な話題を彼女から振ってくるとは思いもしなかったからだ。

「いると思う?」

 苦笑交じりに返すと、セシリアの表情は険しいものになる。自分が副官になってから、正確にはエルザと彼が婚約を破棄してからルディガーにそのような相手がいないのをセシリアもよく知っていた。

 非番のときも誰かに会いに行く素振りもあまりなかったし、むしろ自分にちょっかいをかけてくることも多々あった。それでも彼のすべてを把握しているわけではない。

「どうしたんだよ、セシリアがそんな質問をするなんて」

 いつもの軽い口調で聞かれたが、セシリアの面差しは沈んだままだった。それは声にも表れる。

「……もしかして、そういう機会があるのにもかかわらず私のせいで逃されているのではないかと」

 セシリアらしくない曖昧な言い方だった。これはエルザとの件も含んでいる。はっきりとは聞いていない。正確には聞けなかった。
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