剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
『……まだお姉ちゃんは彼のことが忘れられないのよ、きっと』

 もしも彼もそうだとしたら……。自分がそばにいたせいで彼は――。

「かもね」

 さらりと紡がれた言葉にセシリアは瞳孔を拡大させ目の前の男をじっと見た。ルディガーは椅子から立ち上がり、ゆっくりと机を回ってセシリアに近づく。

 セシリアはルディガーを目で追うが、金縛りにあったように動けない。

「だったら、どうする? 責任取って俺と結婚してくれる?」

 続けてルディガーから放たれた言葉が心の奥底に投げ込まれ、大きな波紋を広げる。

 責任……。

『彼は自分のせいで兄を奪ったからって責任を感じてその妹につきっきりだって』

 さっと血の気が引く。いつの間にか距離を縮めたルディガーは硬直したセシリアの腰に腕を回し、強引に自分の方を向かせた。

 ルディガーはそっと顔を近づけ、ダークブラウンの瞳で彼女を見つめる。

「全部俺のもので、ずっとそばにいるんだろ。俺も手放す気はないんだ。だから……」

 言いかけてルディガーは異変に気づく。セシリアの顔は真っ青だった。自分の声も届いていないのか、目の焦点が揺れ、今にも倒れそうな雰囲気でいる。

「セシリア?」

 名前を呼ぶとセシリアは目線を下に落とした。

「私、は……」
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