剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「そうだな、お前は幸せ者だよ。そういや、この前ライラに会ったとき、まだひとりで馬に乗せてもらえないってぼやいてたぞ」

 スヴェンの妻であるライラと交わした会話の内容をなにげなく伝えてやる。出会ったときの印象からは変わってしまったが、肩下で整えられた栗色の髪と快活さの滲む穏やかな碧色の瞳は、ライラによく相応っていた。

「危なっかしいだろ」

 スヴェンは眉をひそめる。

 長い付き合いのルディガーだからわかるが、スヴェンは不機嫌というより純粋に心配しているだけだ。他人に関心がなく普段は冷徹と評されるスヴェンだが妻のこととなると話は別らしい。

「過保護すぎると、嫌われるぞ」

「その台詞、そっくりそのまま返してやる」

 すかさず応じると、すぐにルディガーから倍になって返答があると踏んだ。しかしスヴェンの予想ははずれた。改めてルディガーを見上げれば、なんともいえない表情をしている。いつもの余裕ある笑みもない。

「どうした?」

 スヴェンはようやく変に突っかからずに話を聞く態勢をとった。ルディガーはしばし視線を泳がせてから語りだす。

「油断した。足をすくわれたよ。照れるか冷たく返されるのは想定内だったんだ。その後、真剣に畳みかけるつもりだったのに」

「……話が読めない」

 スヴェンのツッコミを無視してルディガーはため息をつく。先ほどのセシリアの言葉が彼女の追い詰められた表情と共に何度も脳内で繰り返されていた。
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