剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
『……責任は別の形でとりますから。私はあなたのために命を懸けますし、そばにいます。ですが、それは副官としてです。元帥は私を気にせず、いい人がいらっしゃったら自分の幸せを考えてください。それが私の願いでもあるんです』

 拒絶にも似た力強さで一気に捲し立てられ、さすがのルディガーも呆気にとられる。セシリアはルディガーと視線を合わさないまま続けた。声のトーンはいささか落として。

『……ドリスの元でエルザさんに偶然お会いしました。ドリスの従姉だそうで、体を壊し離縁して彼女の元で養生しているそうです。元帥のこと、気にされていましたよ。ドリスも望んでいましたし、よろしければお会いになってください』

 やっと伝えられたと安堵する気持ちと不必要に感情が乱れている自分が情けなくなり、セシリアは「着替えてくる」という名目もあって、挨拶も早々に部屋を出て行った。

 ひとり取り残されたルディガーはしばし状況についていけなかった。軽くとはいえ“結婚”という言葉を口にして、最終的には相手から元婚約者に会ってやれと言う内容で締めくくられるとは。

「……いつかスヴェンが、ライラから『自分を気にせず、他の女と会ってきて』なんて内容をぶつけられたときはそれなりに同情したけど、意外と堪えるな、これ」

「今ここで妙な共感はやめろ」

 巻き込むなと言わんばかりの口調で返すが、鬱陶しいと思いつつあまり無下にもしない。お互いにこういった話のできる相手はそういないのもわかっている。
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