剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 一時、まったく心の内を話さず、自分の中でため込んでいた頃のルディガーも知っているから尚更だ。聞き役は自分よりもセドリックだったとスヴェンは思いを馳せた。

「やっぱり最初から真面目に攻めるべきだった」

「お前の場合、それでも軽くかわされて終わりだっただろうけどな」

 ルディガーは否定せず、微妙な表情でスヴェンに視線を送る。そんなルディガーにスヴェンは改めて尋ねた。

「で、元婚約者には会うのか?」

「会うさ」

 思った以上にはっきりとした素早い返事に逆にスヴェンが虚を衝かれた。ルディガーは窓の外へと鋭く視線を飛ばした。

「セシリアがドリスの情報を欲しがっている。なら迷う必要はない」

「……相手はお前に未練があるんじゃないか?」

「相手がどういうつもりでも関係ない。俺が優先すべきはセシリアなんだ」

 きっぱりと言い切るルディガーにスヴェンはわざとらしく肩をすくめる。それを見て、ルディガーはやや気まずそうな色を浮かべた。

「お前にも彼女とのことは話しただろ」

 エルザとルディガーは幼い頃から親同士が決めた婚約者だった。なので自分の気持ちを突き詰める前に、彼女とは結婚するのだろうと自然と思っていた。

 とくに不服もなく、たまにしか会えないエルザをそれなりに大事にしていた。

 同時に、ルディガーにとっては幼馴染みと剣の腕を磨く方が楽しかったし、アルノー夜警団に入団する未来を見据え日々鍛錬を積むのを重視するのは当然だった。
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