剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 セシリアは大事な親友の妹で剣の師匠の娘だ。気にかけるのは当たり前で、自分に懐くセシリアをルディガーも可愛がっていた。

 でもそれはあくまでも妹的な存在としてだ。それが崩れたのはいつだったのか。

「セドリックが死んだとき、俺はしばらくセシリアに会えなかった。合わす顔がないと思ったんだ。俺はお前以上にひどい。自分のことばかりで彼女と向き合えなかったんだ」

 言葉にしようとすれば、そのたびに胃酸が上がり胸やけしそうな苦さと痛みが襲う。顔を歪めるルディガーにスヴェンの表情も険しくなっていた。親友を亡くした傷はそれぞれに深い。

「それでも、お前はセシリアを一番気にかけていただろ」

 直接会えなくても、帰還してからルディガーがずっとセシリアを気にしていたのは知っている。あのとき自分たちは十八かそこらだ。今よりもずっと覚悟も余裕も足りていなかった。

 ルディガーは少しだけ口角を上げた。

「あのとき上手く取り繕っているつもりで、正直いつ死んでもいいと思っていた。なにもかもが厭世的にしか見えなくて、自棄になっていたんだ」

 ところが、ベティからセシリアがまだ戻っていないと聞いてルディガーはあれこれ考える間もなく一目散に駆けだした。そのときに気づいた。自分はまだ、すべてをどうでもいいとは思っていない。

 もう失うのは御免だ。今までセシリアに会わなかったことをひどく悔やんだ。

「セシリアと向き合う機会に恵まれて、目が覚めたんだ。自分がなにを大事にしないといけないのかも」
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