剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 久しぶりに顔を合わせ、セドリックの死を責められるのも覚悟した。けれどセシリアは責めるどころかルディガーの心配までしてきて、それが同情でもなくまっすぐなものだったから上手くかわせなかった。

 守らないといけないと思ったのは、セドリックの代わりだとか、兄を失わせた後ろめたさとかじゃない。

 森での一件を経て、ルディガーは極力セシリアのそばにいるようになった。エルザと会う時間を割いてでもセシリアを優先した。

 そんなとき、エルザに曖昧に切り出されたのだ。

『ルディガーがセシリアちゃんを気にするのも理解しているわ。後ろめたさでそばにいてあげないとって思う気持ちも。でも、それはいつまでなの? 結婚してもずっと?』

 エルザがなにを言いたいのか、すぐに見当はついた。結婚話も進められておらず、婚約者として自分は彼女を不安にさせている。

 それなのに、なにひとつ彼女を安心させてやれる言葉が見つからない。いつもなら表面的だけでもなにかしら取り繕えていたはずだ。

『このままなら……他にも私との縁談を希望してくださる方もいるのよ』

 これは駆けなのだと。こうまでしてエルザはルディガーの気を引こうとしている。わかっている。

 しばらくして、気迫に満ちて今にも泣き出しそうなエルザにルディガーは導き出した答えを告げた。

『君が幸せになるのを祈っているよ』

 あからさまに傷ついた表情を見せるエルザ。それでも自分の決断は揺るがない。ルディガー自身、長年の婚約者に対して薄情だと思った。一方で肩の荷が下りたとどこかでホッとしている自分もいる。
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