剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 今は空いた時間をセシリアに使いたかった。後ろめたや罪悪感なんて冗談じゃない。ましてや頼まれた覚えもない。すべて自分で選んで望んだ。

 少しずつ笑顔が戻るセシリアを見てルディガーも自然と笑えた。彼女を気にしつつも本当はルディガー自身がセシリアのそばにいると安心できた。

 だからといって、まさかセシリアを副官にするとは、このときは微塵も想像していなかったが。こんなにもかけがえのない存在になるとも。

「今まで散々、妹扱いをしてきたんだから一筋縄ではいかないのは承知の上だろ」

 たしなめているのかフォローしているのか。スヴェンの発言を受けルディガーは机に手を置き、体を預けて姿勢を崩した。

「そうだな。さらには副官にしてしまった」

「それは本人の希望だろ」

「でも、どんな形であれ彼女を縛っているのは俺だよ。セシリア自身が副官を望んでいるからって言い訳して、本当は誰にも渡したくなかった。スヴェン、たとえお前が相手でも」

 セシリアがルディガーの部屋を訪れたあの夜、上官として、セシリアにとって兄的存在のままでいるなら叱ってでも宥めてでも、上手く諭してなにもせずに帰すべきだった。

 なのに改めて気づかされた。セシリアはもう自分たちの後を追いかけていた子どもではなく、ひとりの大人の女性で、とっくに自分の進む道に対して覚悟を決めている。

 エルザのときには湧かなかった手放したくない強い想いと奔る独占欲に驚いた。冷静に賢く生きてきたつもりだったのに、衝動的な感情はどこから来るのか。
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