剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
残雨に迷う
 翌日、天気はすっかり回復し、気温も少しばかり上昇した。青々とした葉には雨露が光り太陽を反射させている。

 湿っぽくも爽やかな空気に人々の気持ちは自然と浮上する。恵みの雨とはいえ晴れている方がなにかと活動はしやすい。

「元帥、ラファエル区からの申立書は確認いただけましたか?」

「それは、もう目を通してサインしてある」

 いつも通りの平穏な午後。ルディガーとセシリアは何事もなく仕事の話を交わしていた。セシリアはルディガーから書類を受け取る。

 これで今日のおおよその仕事は一区切りついた。そのタイミングを見測りルディガーは彼女に声をかける。

「セシリア」

「なんでしょうか?」

 書類からセシリアの視線がルディガーに移った。彼はおもむろに切り出す。

「昨日の件なんだが……」

 そのとき部屋に荒っぽいノック音が響き、ふたりの意識はすぐさまそちらに持っていかれた。緊迫めいた雰囲気なのは嫌でも理解できる。

「失礼します。ウリエル区の団員からの伝達です。ドュンケルの森の入り口付近で若い娘の遺体が発見されました」

 セシリアは大きく目を見張り、続いて上官を見た。ルディガーも驚きを隠せない。セシリアと一度目を合わせ、ルディガーは団員からの報告に耳を傾けた。

 話を聞き終え、迷う暇もなくルディガーとセシリアは現場へ向かう。話を聞く限り今回は事故ではなく確実に事件だという。そして被害者はふたりとも面識のある人物だった。
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