剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「ええ。彼女の髪を何者かが切ったようです。遺体のそばに彼女の髪と思わしきものが散っていました」

「彼女が自分で切った可能性は?」

「わかりません。さらにもうひとつ」

 ルディガーの問いに答えた団員はさらにディアナにかけられていた布をめくり、首から下の部分をルディガーたちに晒した。

 今度はセシリアもルディガーもなにも言葉を発しない。ディアナの白いフリルのあしらわれたブラウスは無理矢理脱がそうとしたのか首元がはだけ気味だった。

「着衣の乱れはありますが、この部分だけで乱暴された痕跡はありません。ナイフで脅し、その際に髪を切ったのかとも考えましたが……」

 言葉を濁す団員と共にセシリアは遺体をまじまじと見つめた。ベテーレンの花の上に遺体は横たえられ、やはりぱっと見大きな外傷は見られない。

 遺体は雨に晒されたからぐっしょりと濡れていた。そこでセシリアは妙な違和感を覚える。

「最悪だが、嫌な予感は的中したな」

 不意に背後から声が聞こえ、その場にいた全員の視線が集中する。

「ジェイド」

 セシリアが立ち上がり思わず名を漏らした。やや離れた場所からゆっくりと近づく男は黒いコートに、右目にはモノクルを装着している。厳しい目つきをしたジェイドだった。

「おい、一般市民は」

 たしなめようとした団員をルディガーが制する。

「彼は医者だ」

 その発言にジェイドは目を丸くした。ルディガーも立ち上がり、ジェイドにまっすぐ向き合う。
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