剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「気づいた点を教えてほしい。ただし事実を隠し立てしたり、虚偽を申告したら許さない」

 破ればどうなるかなどを言わなくても、真剣さを孕んだ声色で覚悟を問われる。ジェイドも茶化しはせず真面目に答えた。

「……わかった」

 ルディガーとセシリアはその場をジェイドに譲る。ジェイドはしゃがみ込むと薄手の手袋をしてディアナに手を伸ばした。

 確かめるように頭に触れてから、口を強引に開け口腔内を見る。続いて彼はディアナの頭の下に手を滑らせ軽く浮かせると項を覗き込む姿勢を取った。

 険しい表情を崩さず、次にジェイドが取った行動はなぜか顔から足元に移り、ディアナのドレスの裾をめくり上げた。

 正直、セシリアとルディガーには彼がなにをしているのかわからない。ただ黙って彼の一連の動作を見守るだけだった。

 しばらくして遺体と向き合っていたジェイドが振り返りルディガーに声をかける。

「服を脱がして体を確認することは可能か?」

「それは遺族の許可がないとできない」

 ジェイドは頭を掻いて複雑な面持ちになった。

「難しそう……だな」

 死者は丁重に扱われるのが原則だ。事実の解明より重視されるのも当たり前で、疫病の可能性など、余程の事情がない限りわざわざ遺体を裸にして他者に晒そうとする遺族は少ない。

 ましてやディアナは年頃の娘だ。トビウスの悲しみ方を見ても、とても許可されそうにもない。

 ジェイドはやれやれと肩をすくめ立ち上がった。
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