剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 現場をウリエル区の団員に任せ、セシリアとルディガーは会話らしい会話もなくひとまず城に戻った。気になる点は山ほどあるが、まずは自分の頭の中で整理する。

 部屋に入ったところで、セシリアは不意に前を歩くルディガーに声をかけた。

「大丈夫ですか?」

「なにが?」

 首だけ動かし後ろに意識を向けたルディガーが問いかける。あまりにも彼が平然としているので、逆にセシリアは先が続けにくくなった。しかし、中途半端に終わらすわけにもいかない。

「元帥はディアナ嬢と親交があったので……」

 ぎこちなくも伝えるとルディガーは納得した表情を見せ、セシリアの言いたい内容を汲む。

「ああ。平気だよ。彼女の死を悼んではいるけれど、自分が気落ちするほど肩入れした覚えもない」

 抑揚なく告げられた言葉はなぜかセシリアを動揺させた。ルディガーが強がっているわけでも、取り繕っているわけでもないのも伝わるから余計にだ。

「そう、ですか」

 そこでルディガーは微笑む。どこか冷たさを帯びていた。

「色々割り切っていないとアードラーは……ここではやっていけないからね」

 ルディガーの言い分はもっともで、副官としては安心すべきところだ。それなのにセシリアの心はどうもざわつく。理由がわからないから余計に気持ちが悪い。

 とにかく今はディアナの死の真相を……アスモデウスについて解明するのが最優先だと自分を叱咤する。そんなセシリアをルディガーは複雑な面持ちで見つめていた。
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