剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 彼を名前で呼ぶのは実に久しぶりで、声にして自分の耳に届き、思わず照れが入りそうになってしまったがそれは必死に隠して顔には出さない。

 ところが、ルディガーがセシリアの額に口づけたので、さすがのセシリアもポーカーフェイスが崩れる。対するルディガーは満足げな顔でセシリアの髪に触れ、彼女をきつく抱きしめた。

「ちょっと」

「あまりにもシリーが可愛らしかったものだから」

「ふざけないでください」

 腕の中も抗議するも、どうも格好がつかない。いつもの上官と副官という立場より、今はどちらかと言えばプライベートな雰囲気に自然となっている。

 なんだかんだでこれが上官の狙いなのだとすると、セシリアはやはりルディガーには敵わないと思い知らされる。調子よく彼に乗せられただけだ。

「こっちは上手くやるから、シリーはドリスから自分の欲しい情報を引き出すことだけを考えたらいい」

 耳元で囁かれ、セシリアは一度目を瞑って自分の気持ちを落ち着かせる。そしてゆっくりと目を開けてから答えた。

「ルディガーも……こんな状況で申し訳ないけれど……任務などと思わずにエルザさんと会ってね」

 これは本心だ。状況も合わさり副官としてではなくセシリア自身の願いとして伝えられた。

 もしも自分のせいでふたりの間になにかわだかまりができてしまったのなら、できれば解消してほしい。

 ルディガーはなにも答えずセシリアの頭をそっと撫でてから先を促した。
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