剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 エルザは遠慮なくルディガーとの距離を縮めると確かめるように彼の頬に手を伸ばした。

「また会えるなんて夢みたいだわ」

「大袈裟だよ」

 ルディガーは苦笑しつつも、エルザが触れるのを拒んだりはしない。セシリアはそんなふたりから、反射的に目を背けたくなった。

 自分の気持ちが意識せずとも沈んでいくのをありありと感じる。心臓が早鐘を打ちだし、胸が苦しい。どうしてこんな感情を抱くのか。

 淀むセシリアの腕を不意にドリスが取った。

「セシリアはこちらでお茶にしましょう。お姉ちゃんたちのところにもお茶を持っていかせるわね。どうぞ、ごゆっくり」

 ドリスとしては早くエルザをルディガーとふたりにしてあげたい気持ちが先走る。狙い通りだ。セシリアはドリスからの信頼を得て彼女とふたりで話がしたかった。

「ありがとう、ドリス。セシリアちゃんもゆっくりしていって」

「はい、ありがとうございます」

 エルザから笑顔を向けられ、セシリアは軽く頷いた。そのとき隣にいたルディガーと目が合う。

 大丈夫、わかっている。

 余計な感情はいらない。目で彼に応えて、今の自分の目的を達成すべくセシリアはドリスに案内されるがまま歩を進めた。

「セシリア、本当にありがとう。お姉ちゃんのあんな嬉しそうな顔、久しぶりに見たわ」

「それはよかったです」

 外套を使用人に預け、以前と同じ客間に通される。白いテーブルクロスのかかった机の上に置かれた飴色の紅茶は、甘い香りを漂わせていた。
< 122 / 192 >

この作品をシェア

pagetop