剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 前回とは打って変わってセシリアに対するドリスの態度は軟化し、機嫌もすこぶる良い。

 ドリスはカップを置き、ふぅっと息を吐く。

「話には聞いていたけれど、お姉ちゃんの婚約者だった人、本当に素敵ね。とってもお似合いだったし、上手くいくといいんだけれど」

 うっとりしたと思えば今度は悩ましげな面持ちだ。まっすぐなドリスにセシリアは微笑む。

「本当にエルザさんがお好きなんですね」

「うん、大好き。私の憧れなの。知的で美人で、それでいて女性らしくて。多くの男性の理想像でもあるわよね」

「あなたも十分、素敵だと思いますよ」

 セシリアの発言にドリスはどうしてか煮え切れない表情を見せた。

「ありがとう。でも男性は、私みたいにお転婆でガサツなのはあまり好きじゃないだろうから。体型もドレスが似合うようにもっと痩せた方が……」

 ドリスの言い分でセシリアは直感的に閃く。彼女の言い分は男性というより誰か特定の人物を指している気がした。

「どなたか、想いを寄せている方でもいらっしゃるんですか?」

 図星だったのか、セシリアの指摘にドリスは大きく目を見開き、あからさまに狼狽する。

「えっと……まぁ。その……」

「だから、綺麗になろうと努力されているんですね」

 少しずつドリスの話に添いながらセシリアは話題の方向を誘導していく。

「うん。まぁね」

 最終的に照れながらもドリスは認めた。そこでセシリアが踏み込む。
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