剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「あの、前にお話ししていた美容法、もしよかったら私に教えてもらえませんか?」

「え?」

 どんな反応をされるか。ドリスの表情を注意深く観察していると、彼女はセシリアの予想外の切り返しをしてきた。

「セシリアにも好きな人がいるの?」

 思わず面食らうセシリアに対し、ドリスは目をキラキラとさせ好奇心いっぱいだ。

「どんな人? もしかしてマイヤー先生?」

 嬉しそうなドリス。せっかく食らいついてきた話題だ。相手はともかくここで下手に否定して、話の勢いを萎ませるのもよくない。

「彼ではありませんが……」

 セシリアは言葉を迷う。しかし、その姿がドリスには違う意味での躊躇いに見えて、彼女はおとなしく続きを待った。セシリアは頭を必死に回転させ、ぎこちなくも口を開く。

「つらい思いをしてきた人で……。誰よりも幸せになって欲しいんです。そのために私ができることならなんでもしたいって思える人ですよ」

 これでドリスは納得しただろうか。自然とルディガーを浮かべて発言してしまったが、気づかれなかっただろうか。

 緊張しつつドリスを見つめていると彼女は形のいい眉をハの字にして呟いた。

「その彼には他に好きな人がいるの?」

「え?」

 ドリスは困惑顔で微笑み、指摘する。

「あなたの言い分、とっても素敵だけれど、諦めるのが前提みたいな言い方だから。そこは私が幸せにしたい!ってならない?」

 悟られたか、違和感を抱かせてしまったか。セシリアがどうフォローすべきか思考を巡らせていると、ドリスがおもむろにカップをソーサーに置いた。
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