剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「もしも誰かがディアナの遺体を運んできたのだとしたら、犯人は男性でしょうか」

「かもな。でもどうやって運んだんだ? 抱えるにしても荷車を引くにしても目立つだろう。そこまでしてデュンケルの森の入り口付近に運ぶ必要があったのかも疑問だ」

「……ブルート先生なら違和感なく運べますよね」

 セシリアのなにげない発言にジェイドは足を止めた。

「お前、先生を疑っているのか?」

「だとしたら、軽蔑します?」

 久々にふたりを包む雰囲気が冷たいものになる。まるでディアナの館で初めて対峙したときのようにピリピリとした空気が流れた。

 ジェイドは黙ってセシリアのそばに寄り、荷車を引くのを交代させた。ゆっくりと車輪が回りだしたところで口火を切る。

「……いや。あらゆる可能性を考えるのは必要なことだ。ただ実際難しいだろ。お前も体感したように、この鹿を運ぶのでギリギリの重さだ。痩せ形とはいえ成人女性の遺体となると車輪も耐えられるかどうか」

 重すぎると車輪が回らない。テレサも話していた通り、この荷車はかなり使い込まれ古くなっている。現に今もガタガタと軋む音が響いていた。

 セシリアはワインの瓶を抱え、ジェイドの隣に並んだ。小さく謝罪の言葉を口にする。

「すみません、失礼な話を」

「そうは言っていない。情を挟まずに物事を考えるのは立派だ」

 すかさずジェイドはフォローを入れる。続けてセシリアの方を向くとジェイドは口角を上げ、問いかけた。
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