剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「となると、お前は俺も疑っているのか?」

 セシリアは目をぱちくりとさせ、次に動揺もM迷いも見せずに正直に答えた。

「まったく疑っていないと言えば嘘になります。でも、個人的にあなたのことは信じたいと思っています……兄さんの分も」

 セシリアのまっすぐな回答に今度はジェイドが目を丸くする。だが、すぐに余裕のある笑みを浮かべた。荷車を引く手を止め、セシリアの頭になにげなく触れる。

「心配するな。俺は嘘をつくのが苦手な男だからな」

「よく言いますよ。さっそく嘘をついているじゃないですか」

 間髪を入れない返しに、一瞬間が空く。そしてどちらからともなく噴き出し笑みが零れた。

 そのとき突風が起こり、セシリアは片手で髪を押さえる。葉擦れの音が風の存在を示し、セシリアは思わず身震いした。

 それを見て、ジェイドはおもむろに自分のコートを脱ぎ始める。

「着ておけ。風邪でも引かれて仕事を増やされても困る」

「ですが……」

 差し出された黒いコートを前にセシリアは躊躇った。けれど有無を言わせないジェイドの眼差しと言い分に、おずおずと受け取ろうと手を伸ばす。

 ところが、なにを思ったのか寸前でジェイドがコートを自分の方に引っ込めた。

「え?」

 彼の行動の意図が読めず、さすがに面食らう。するとジェイドがゆるやかに笑った。

「どうやら、必要なさそうだからな」

 発言の意味も理解できない。しかし、すぐ後方に気配を感じセシリアはとっさに振り向こうとした。
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