剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「痩せたというより顔色が悪いときもあると心配していた」

 誰が、とは言わなかったが聞くまでもない。セシリアの胸がやはり勝手に痛む。ルディガーはジェイドに告げた。

「とりあえず、こちらはドリスの交友関係と今までの被害者の知り合いで共通する人物がいないかを探ってみよう」

「わかった。俺は患者やウリエル区の人間から情報を集めてみる」

 互いの役割を確認し合ったところで、ルディガーはセシリアに城に戻るよう促した。

「セシリア」

 そこで不意にジェイドがセシリアを呼び止め、ゆっくりと彼女に近づく。

「今日の駄賃にこいつをご馳走してやる。また来いよ」

 ワインの瓶をセシリアから受け取りながら誘う。たいして役に立ってはいないが、ジェイドなりの気遣いにセシリアは感謝した。

「ありがとうございます」

「セシリアだけかい?」

 すかさずセシリアの隣に立つルディガーが口を挟む。そんな彼にジェイドは皮肉めいた笑みを向けた。

「なんだ? お前もそんなに鹿肉を食いたいのか?」

「そうだね、ご馳走になろうかな」

 なんとも上滑りな会話だ。セシリアはルディガーの真意が読めない。本気で鹿肉を食べたいために言っているわけではないのはわかるが。

「あの、元帥」

 やはりジェイドに対して警戒心を緩めていないからなのか。セシリアが口を挟もうとした瞬間、ジェイドが鼻を鳴らした。

「気が利かない男だな。プライベートまで上官と一緒にいたくないだろ。たまには副官を解放してやったらどうだ」

 セシリアの意識がジェイドに向く。その隙を突いて、ルディガーはセシリアを抱きしめた。ジェイドから奪うようにして。
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