剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
核心に誘う
 夜警団の仕事を終え、夕飯や湯浴みを済ませてからセシリアは自室に戻った。城に駐在する団員の食堂や寝所などの生活空間はほぼ一カ所にまとめられている。

 セシリアはアードラーの副官として一人部屋が与えられ、場所も国王陛下もといアードラーの自室のそばだった。

 他の団員は城の内外を含め、昼夜交代で見張りを務める任務があるが、基本的にアードラーの副官であるセシリアにはない。

 そういったのも関係している配置だ。ただし任務次第では真夜中だろうとかなり不規則になる場合もある。

 夜の帳がすっかり下りた頃、セシリアは夜着から団服に着替え、そっと部屋を抜け出した。向かうのは城の書物庫だ。

 蝋燭を光源とした洋灯を持ち、暗い廊下を極力気配を殺して前に進む。

 ディアナが亡くなってから連日、セシリアは決まってこの時間帯に書物庫へ通い詰めていた。途中、見張りの団員とすれ違い、軽く挨拶を交わすなどして目的地を目指す。

 大きな両開きの重厚な扉には鍵がかかっているが、鍵は拝借済みだ。めったに人が訪れないので、見張りの者もいない。

 大きな音を立て錠が外れる。ゆっくりとドアを開けば、埃とカビ臭さが鼻を突いた。それを無視して迷路のような棚の隙間をくぐっていく。

 途中、部屋に備え付けの燭台に明かりを灯していき、部屋を徐々に照らしていった。

 ここには古今東西の図書の他、城の古い歴史書や資料など膨大な書物が収められている。
< 138 / 192 >

この作品をシェア

pagetop