剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「そういえば、ディアナもアスモデウスに接触しているって話よ。これは噂じゃなくて、彼女からそれらしい話を聞いたの」

 ふと耳に飛び込んできた発言に、セシリアは顔を向けそうになるのを堪えて、意識だけを集中させた。

「どうしてディアナが? 彼女は十分に綺麗で何人もに求婚されているんでしょ?」

 身分も金銭的にも彼女にはなにも不自由していそうにない。しかし人間は欲深い生き物だ。

「夢中になっているアードラーがなかなかなびいてくださらないからじゃない?」

 皮肉めいた言い方だった。セシリアが視線を戻すと、ルディガーのにこやかで温和な表情にディアナは嬉しそうにしている。

 セシリアはじっと彼女を観察した。ディアナは女性にしては背が高い方だが、細身で背の高いルディガーにもよく釣り合っている。

 きりっとした目元が、気の強そうな印象を誘う。彼女の自信がそうさせているのもあるのだろう。締められたウエスト、肌は血色さがあまりなくむしろ色が白い。

 そして隣にいる男は、とてもではないが迷惑そうに話していた面影は微塵も感じられない。

 だから、どうだというのか。セシリアは自分を叱責する。

 彼がどのような相手と付き合おうと、自分の立場も決意も変わらない。遊びでも、本気でも。結婚も同じだ。

 もうひとりのアードラーであるスヴェンが妻のライラと結婚したきっかけは、最初は国王陛下の命令で期限付きの形だけのものだった。

 それがいつのまにかお互いにかけがえのない存在となり、想い合うのに至って結婚生活を営んでいるんだから、ふたりは幸せだ。
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