剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「摂取量が多ければ死に至る事例もありますが、もきちんと処理して適切な量ならなんの問題もありません。薬も過ぎれば毒となると言いますか。これも薬草園ではなく馴染みの薬種店で手に入れたので安心ですよ」

 以前ライラと一度、ともに訪れた店を思い出す。ライラが孤児院にいるの頃から付き合いのある店主は人柄も腕も間違いなさそうだった。

「そうなんですか」

「その一方で、とても便利な花なんです」

「便利?」

 セシリアが思わず尋ね返すと、ライラは笑顔で大きく頷いた。

「はい。ヴェターは雨が降りそうになると花の色が薄い水色から濃い青に変わるんです。空気中の水分量が関係しているのか、詳しい原因はわかりませんが、空とこの花を見れば雨の予想は百発百中ですよ」

 淀みない語り口と知識にセシリアは純粋に感心した。けれどライラははっと我に返ると、背中を丸め、眉を曇らせる。

「すみません、余計な話を長々と……」

 しゅんとするライラにセシリアは笑った。

「いいえ。お話、とても面白かったですよ」

 セシリアのフォローにライラはおずおずと背筋を正す。そして机の上に大量に置かれている書物や本に目を遣った。

「お仕事、大変ですね」

「いえ。仕事の延長ではありますが、これは私個人が気になって色々調べているだけなんです」

 セシリアの回答にライラはどこか物悲しそうな表情になった。

「スヴェンも相変わらず忙しいみたいで……。羨ましいです。私はこんなとき、彼の役になにも立てないから」

「そんなことありませんよ。あなたがそばにいるだけで、バルシュハイト元帥は十分なんだと思います」

 セシリアはすぐさま否定する。慰めでも励ましでもなく素直な意見だ。
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