剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 現に今だって、スヴェンは任務で遠出したとしても極力城へ、ライラの元へ戻って来るよう心掛けている。前のスヴェンならありえない。

 相変わらず厳しい態度を取ることが多いスヴェンだが、ライラと結婚して雰囲気が和らいだのも事実だ。

「帰る場所があるのは、とても心強いですから」

「なら、エルンスト元帥もセシリアさんがいつもそばにいるので心強いですね」

 ライラの切り返しにセシリアは目を丸くする。ライラの顔には笑みが浮かんだままだ。そのとき部屋のドアがノックされた。こちらの返事を待たずに扉が開く。

「ここにいたのか」

 入って来たのは疲れた顔をしたスヴェンだった。ライラが信じられない面持ちで彼を見る。

「スヴェン。遅くなるって……」

「思ったより、早く交渉がまとまったんだ」

「お疲れ様です、バルシュハイト元帥」

 面食らったのはライラだけでセシリアは冷静に挨拶する。スヴェンがライラのそばまで歩み寄ってきたので、ライラも立ち上がった。

「もういい時間だ。先に休んでおけって言っただろ」

「でも」

 続きを言い迷うライラの頭をスヴェンは優しく撫でた。

「待たせたな。とりあえず行くぞ」

 スヴェンの言葉を受け、ライラは静かに頷く。スヴェンからは見えないかもしれないが、セシリアからはライラが幸せそうに笑っているのが見えた。

 スヴェンは視線をセシリアに寄越す。

「邪魔したな」

「いいえ」

「お前もいい加減、休めよ」

 セシリアへの気遣いもぶっきらぼうに見せ、スヴェンとライラは部屋を後にしていった。
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