剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 一方で、もしかすると陛下からの命令でライラと結婚したのはルディガーだったかもしれないとの考えが後から過ぎった。

 可能性を考慮していなかったわけではないが、ルディガーが結婚する現実だって十分に起こりえるのだと実感した。

 だから自分も改めて覚悟しなくてはならない。 

 セシリアは不自然ではない程度に彼らに視線を送る。アスモデウスと接触した可能性があるというディアナの情報がもう少し欲しい。あとで上官に話を聞いてみようと決める。

 その際、ふとルディガーと目が合った、気がした。距離は十分に取ってある。

 セシリアはすぐに目を逸らした。

 自分が今日、ここに来た目的は情報収集だ。よっぽどの危害や危険が上官を襲わない限り、最後まで赤の他人を通さなければ。セシリアは再び群衆に溶ける。

 ひとしきり様々な話題を拾って話を聞き、セシリアは会場の外に出た。中庭に面した廊下の手すりに体を預け、情報を整理していく。冷たい外気が、逆に心地いい。

 アスモデウスに関しての噂は様々なものがあった。

 青年の姿で現れるが、それは最初だけ。実はアスモデウスは蛇になるのだと。またアスモデウスが出現すると雨が降るなど、挙げだしたらきりがない。

 どこまでが面白おかしく付け足されているのか。真偽はどうでもいい。そもそもアスモデウスの存在など空想上のものだ。

 しかし実際にアスモデウスに会うため、ドュンケルの森に足を運んだ女性もいると聞いて危機感を覚える。
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