剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 再び、静寂が部屋を包みセシリアは行儀悪く背もたれに体を預け天井を仰ぎ見た。焦点がぶれて平衡感覚がおかしい。小刻みに睡眠はとっているものの疲労感が拭えない。

 膨大な情報を整理するため、おもむろに瞳を閉じた。しばらくそのままでいると、再び部屋のドアが控えめにノックされる。

 スヴェンかライラのどちらかがなにかを忘れたのか。ところが、顔を出したのは自身の上官だった。

「遅くまで頑張るね」

 セシリアは軽く息を吐いて、ルディガーから視線をはずす。彼もまた団服を着ていた。しかしルディガーはスヴェンと違い、今日は城内で事務処理と打ち合わせが主だったはずだ。

 おそらく自分に気を使ったのだと悟る。少し部屋を使わせてほしいと事前に申し出てはいたが、こんな時間にやってくるとは思ってもみなかった。

「ご自分の部屋なんですからノックは必要ないと思いますが」

「セシリアがいるのをわかっていて無遠慮に開けるほど無粋じゃないさ」

 やりとりを交わしながらルディガーはセシリアの方へ近づく。

「お気遣い感謝します。どうされました?」

「心配になってね」

 端的な回答にセシリアの心が揺れた。上官に心労をかけるのは副官として申し訳ない。
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