剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 見透かされたのが悔しいような、自分の未熟さを責められたような。ぎゅっと膝で握り拳を作り、すっきりしない頭で続ける言葉を懸命に探す。

 ところが、セシリアが言葉を紡ぐ前にルディガーがいつもの調子であっけらかんと違う話を振ってきた。

「ほとんど飲んでないじゃないか」

 もったいないとでも言いたげな口調だ。ルディガーの視線の先には、セシリアの正面に置かれたお茶のカップがあった。

「一口頂きました」

 ライラが部屋を去る際に、片づけを申し出たがそれをやんわり断っていた。中身はすっかり冷め、わりと残っている。色は酸化したのか、淹れたてよりもややくすんでいた。

「もらおうかな」

 なにを思ったのか、あまり美味しそうにも思えないお茶に対し、ルディガーはにこやかに告げてきた。途端にセシリアは怪訝な顔になる。

「冷めていますし、飲みかけですよ?」

「かまわない」

 セシリアは肩を落として、再び資料に手を伸ばし目を通しだした。ルディガーはセシリアの方にさらに距離を縮め、彼女のカップに手を伸ばす。

 せめてカップを彼の方に寄せればよかっただろうか。気遣いができなかったのをわずかに悔やんだが、もう遅い。ややあってカチャと音を立て、カップがソーサーに戻されたのを音と気配で感じる。
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