剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 さすがに、ひと声かけようとセシリアは資料からルディガーの方へ首を動かそうとした。すると思った以上に彼の顔が近くにあり、驚く間もなく肩を掴まれ強引に口づけられた。

 予想外の展開にセシリアは目を丸くする。すぐさま抵抗しようとしたが、それより先にルディガーがセシリアの腰と後頭部に手を添え、逃げるのを阻んだ。

「んっ……んん」

 唇をきつく結んで顔を背けようとしたが許されず、そのままソファに倒される。ルディガーに覆いかぶさられ、硬いソファを背にし、ますます逃げ道がない。

 彼の肩を押すもびくともせず、逆に唇を重ねたまま頬を撫でられる。彼の目は真剣そのものだ。

 訴えかける眼差しに、相手がなにを望んでいるのかセシリアには読めている。これ以上、拒否し続けるのが無駄だというのも理解した。

 観念してゆるゆると唇の力を緩めると、おもむろに口内に液体が注がれる。口移しされたものは、さっき飲んだ状態よりも渋みがましている。

「ふっ…ん」

 吐き出す選択肢もあったが、おとなしく嚥下し、それを確認してからルディガーはゆっくりとセシリアを解放した。

 飲み干せなかったお茶がセシリアの唇から流れていくのを、ルディガーは舌を這わせ舐め取る。

 口移しよりもそちらの行動にセシリアの心臓は跳ね上がった。反射的にルディガーの肩を強く押す。

「っ、彼女に、なにを指示したんです?」

 肩で息をしながらセシリアは乱暴に尋ねた。ルディガーは改めて至近距離でセシリアを見下ろし笑顔で答える。
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