剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「ライラにはシュラーフよりさらに強めの睡眠効果のあるお茶を頼んだんだ」

「なんっ」

 とっさに抗議しようとするもルディガーがセシリアの唇に指を添える。思わず眉をひそめるセシリアにルディガーは真剣な面持ちで言い聞かせた。

「少し眠った方がいい。集中力も落ちている。現に今だってろくに抵抗できなかっただろ。俺じゃなかったらどうするんだ」

 先に一口飲んだのもあってか、頭の中に靄がかかりだす。それもあってセシリアは、いつもよりも飾らない言葉で返した。

「……あなた相手にも気を張り詰めていないといけませんか?」

 常に周りに対してセシリアは警戒心を巡らせている。それはルディガーとふたりのときもだ。けれどルディガー自身にはそこまで神経を尖らせていない。信頼しているし信用している。

 いつもなら『すみません』で片付けるのを、このときばかりは本音が漏れる。

 意表を突かれたルディガーは、大きく目を見張ってからすぐに切なげに顔を歪めた。

「その切り返しずるいね。叱る気も失せるよ」

 そして自分の肩を押していたセシリアの手を取り、自身の頬に添えさせた。衝動的にセシリアは手を離そうとするが、ルディガーが掌を重ねているので叶わない。

 先日、エルザが彼に触れていたのを思い出す。真っ白で傷ひとつない綺麗な手。ライラもそうだった。対するセシリアの手は、ナイフを扱うので傷や痣も絶えない。

 そんな自分の手がルディガーに触れるのは、なんとなく後ろめたかった。

 ルディガーはセシリアの微妙な心の機微などを無視して彼女の手を頬からずらし口元に持っていくと掌に音を立て口づけた。
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