剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「今日、もう一度ドリスに会いにいってもかまいませんか?」

 できれば優先したい事項だった。無理を承知で切り出せば、ルディガーはセシリアの急な申し出に軽く頷く。

「わかった。俺も行こう」

「いえ、ですが」

 さも当然と立ち上がった上官に、セシリアは慌てた。彼は昨日に引き続き、今日中にまとめなければならない報告書の類や近隣諸国への遣いの手配など多くの仕事があったはずだ。

 セシリアの顔色を読みルディガーは微笑む。

「心配しなくても、今日の仕事は終わらせている」

「もう、ですか?」

 それなりの仕事量だったのでセシリアは信じられない思いで尋ねた。ルディガーは笑みを湛えたままゆっくりとセシリアに近づく。

「シリーの可愛い寝顔を見てたら、俄然やる気が出ててね」

 ウインクまで投げかけられ、セシリアは羞恥心を覚えた。どうやら彼は本当にあれからここで仕事をこなして自分のそばにいたらしい。

 己の至らなさを心の中で叱責し、セシリアは素早く自室へ戻った。

 ドリスの元を訪ねるので私服姿になる。ゆったりとした白いブラウスに焦げ茶色の長いスカート。髪はおろしてひとまとめにする。

 愛馬に跨がり、セシリアは遠くを見た。今日は澄み渡る青い空が広がっている。
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