剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 ドリスの屋敷にルディガーと訪れたとき、お馴染みの初老の使用人が顔を出したが、玄関には意外な人物がいた。

「……ルディガー? セシリアちゃんも」

 大きい目を丸くしたエルザが予想外の来客者にやや上擦った声をあげる。驚いたのはルディガーとセシリアもだった。

 話を聞けば、今日は体調が比較的落ちついており天気もいいので、家の周りを軽く散歩しようとしていたところだったらしい。

「ごめんなさい。ドリスは今、お友達の家に出かけていていないの」

 ドリスの不在にセシリアの心は不安でざわめく。約束をしていたわけでもないので突然訪れたこちらに非はある。とはいえ、どうするべきか。

「この前、話していたキャミーのところかい?」

 さりげなくルディガーがドリスの行き先を探る。エルザは屈託なく笑った。

「ええ。キースが家にいるのかはわからないけれどね。ねぇ、よかったら少し散歩に付き合ってくれないかしら?」

 エルザの提案にルディガーはセシリアを見る。

「なら、シリーも」

「私はその間、中で待たせていただいてかまいませんか?」

 ルディガーの言葉を遮り、セシリアはエルザに尋ねた。エルザからは「もちろんよ」と返事がある。ルディガーがなにか言いたそうな目をセシリアに向けたが、それは無視した。

 気を利かせると言うにはおこがましい。ただ元婚約者同士の仲に立ち入るほどセシリアは図太くないし、見せつけられるのも御免だ。

 それにエルザから情報を探るにしてもふたりもいらない。なによりドリスが帰ってくる可能性もないわけではない。
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