剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 まずは上官の意見を窺おうと外に出てルディガーとエルザを探す。そう遠くは行っていないはずだ。

 屋敷の裏手に駆け出そうとして、わずかに気配を感じ歩調を緩めた。そして遠目にふたりの姿を捉えたとき、セシリアの足は止まった。

 ルディガーがエルザと抱き合っていた。一方的にエルザが身を寄せているわけではなく、ルディガーも彼女のか細い肩に腕を回し、優しく抱きとめている。

 瞬きもできず、息も止まる。風が凪いだのは気のせいか。

 続いて反射的に顔を背け、セシリアは逃げるようにその場を去った。心臓が色々な意味で煩い。

 あまりにも絵になる光景で目に焼き付いて離れない。今日、ルディガーが自分に同行すると申し出たのは情報収集の意味もあったが、エルザにまた会いたかったからなのしれない。

 だったら、どうなの?

 もしもふたりが上手くいったのなら、喜ぶべきことでセシリアの願いでもあった。

 なのに、なんで? どうしてこんなに胸が痛いの?

 振り払いたくて、とにかく足を動かす。今は一刻も争う事態だ。自分の考えを確かめるためにも、あれを探す必要がある。

 ほどなくしてセシリアがやってきたのはジェイドの診療所だった。珍しく玄関のドアが閉まっている。乱暴にノックするも中から反応はない。留守らしい。

 セシリアは眉を寄せる。肩で息をしながら、しばらく思索しある決意をした。
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