剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「ですが、不思議だったんです。どうしてディアナ嬢だけが、あからさまに人為的な死だとわかる状態になっていたのか。今までの被害者はすべて事故で片付けられたのに」
「そうね、不思議だわ」
言葉とは裏腹にテレサの声には感情が乗せられていない。笑みを浮かべていている顔にもだ。
「あれこれ仮説を立てて、考えを逆にしたんです。ディアナ嬢の場合はそうせざるを得なかった。着衣の乱れ、髪を切る。そして彼女は、いつも身に着けている大切なボレロを着ていなかった」
セシリアはテレサをじっと見つめ、問いかける。疑問ではなく確認として。
「少しでも彼女の身を軽くしようとしたんですよね。彼女は他のふたりよりも女性としてはやや長身でしたから」
テレサの表情がほんの刹那、崩れた。おかげで続けられた言葉もどこか早口だ。
「待って。たかだか服や髪を切った程度では」
「瀉血(しゃけつ)」
セシリアの口にした言葉にテレサの顔が今度こそ強張る。
「血を抜いて悪いものを出す治療法です。美容にもいいんだとか。あなたは彼女たちに瀉血を行っていたのでしょう? 兄の残した手記で読んだんです。中が空洞で体内に液体を注入できる針が異国で発明されたと。あなたはそれを使って逆に血を抜いた」
血を抜けば、体が軽くなった気がする。肌が白くなるのは貧血で青白くなっていただけだ。しかし、彼女たちは少しでも細く美しくなるのを望んでいた。
『先生には簡単なことよ』
美容法を聞いたジェイドに対するドリスの返答。あれも辻褄が合う。医師の彼なら瀉血を行おうと思えば自分でもできるはず、そういう意味だったのだ。
「そうね、不思議だわ」
言葉とは裏腹にテレサの声には感情が乗せられていない。笑みを浮かべていている顔にもだ。
「あれこれ仮説を立てて、考えを逆にしたんです。ディアナ嬢の場合はそうせざるを得なかった。着衣の乱れ、髪を切る。そして彼女は、いつも身に着けている大切なボレロを着ていなかった」
セシリアはテレサをじっと見つめ、問いかける。疑問ではなく確認として。
「少しでも彼女の身を軽くしようとしたんですよね。彼女は他のふたりよりも女性としてはやや長身でしたから」
テレサの表情がほんの刹那、崩れた。おかげで続けられた言葉もどこか早口だ。
「待って。たかだか服や髪を切った程度では」
「瀉血(しゃけつ)」
セシリアの口にした言葉にテレサの顔が今度こそ強張る。
「血を抜いて悪いものを出す治療法です。美容にもいいんだとか。あなたは彼女たちに瀉血を行っていたのでしょう? 兄の残した手記で読んだんです。中が空洞で体内に液体を注入できる針が異国で発明されたと。あなたはそれを使って逆に血を抜いた」
血を抜けば、体が軽くなった気がする。肌が白くなるのは貧血で青白くなっていただけだ。しかし、彼女たちは少しでも細く美しくなるのを望んでいた。
『先生には簡単なことよ』
美容法を聞いたジェイドに対するドリスの返答。あれも辻褄が合う。医師の彼なら瀉血を行おうと思えば自分でもできるはず、そういう意味だったのだ。