剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「ですが、不思議だったんです。どうしてディアナ嬢だけが、あからさまに人為的な死だとわかる状態になっていたのか。今までの被害者はすべて事故で片付けられたのに」

「そうね、不思議だわ」

 言葉とは裏腹にテレサの声には感情が乗せられていない。笑みを浮かべていている顔にもだ。

「あれこれ仮説を立てて、考えを逆にしたんです。ディアナ嬢の場合はそうせざるを得なかった。着衣の乱れ、髪を切る。そして彼女は、いつも身に着けている大切なボレロを着ていなかった」

 セシリアはテレサをじっと見つめ、問いかける。疑問ではなく確認として。

「少しでも彼女の身を軽くしようとしたんですよね。彼女は他のふたりよりも女性としてはやや長身でしたから」

 テレサの表情がほんの刹那、崩れた。おかげで続けられた言葉もどこか早口だ。

「待って。たかだか服や髪を切った程度では」

「瀉血(しゃけつ)」

 セシリアの口にした言葉にテレサの顔が今度こそ強張る。

「血を抜いて悪いものを出す治療法です。美容にもいいんだとか。あなたは彼女たちに瀉血を行っていたのでしょう? 兄の残した手記で読んだんです。中が空洞で体内に液体を注入できる針が異国で発明されたと。あなたはそれを使って逆に血を抜いた」

 血を抜けば、体が軽くなった気がする。肌が白くなるのは貧血で青白くなっていただけだ。しかし、彼女たちは少しでも細く美しくなるのを望んでいた。

『先生には簡単なことよ』

 美容法を聞いたジェイドに対するドリスの返答。あれも辻褄が合う。医師の彼なら瀉血を行おうと思えば自分でもできるはず、そういう意味だったのだ。
< 164 / 192 >

この作品をシェア

pagetop