剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「おもしろいわね、あなたのお話。でもすべては仮定よ」

「ええ。だから確証が欲しくて今日、ここに来ました。そして、これを見つけたんです」

 セシリアは今さっきここで見つけたものを前に出す。黒く焦げた小さな骨組みのようなものだった。

「それは?」

「ディアナ嬢のボレロにあしらわれていたホフマン家の徽章です。二本の牡丹(ピオニー)をかたどっています」

 テレサが一瞬、眉を寄せる。あきらかな動揺だった。 

「初めてここを訪れた際、私は暖炉の炎が一瞬、緑に揺らめいたのを見た。見間違いかと思いましたが、そうじゃない。これは銅糸でできています。炎色反応。おそらくあなたも消毒液にアルコールをいつも利用している。その手で触れた銅が炎に反応したのでしょう」

 セシリアはかざしていた徽章をそっとしまった。そしてテレサを見据える。

「あなたはディアナ嬢と面識がないと言っていた。なのにどうして、ここにこれがあるんですか? 本物かどうかはホフマン卿に問い合わせればすぐにわかります」

 追い詰める眼差しにテレサは大きく息を吐き、わざとらしく肩をすくめた。

「参考までに聞かせて。どこで私が怪しいと思ったの?」

 認めたテレサの物言いにも、セシリアの気はまったく晴れない。逆に自分の推測が当たってしまったことが物悲しくもあった。

 セシリアはわずかに視線を落とす。それに比例して声も小さくなった。
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