剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「……違和感は色々とありましたが……とくに私とジェイドが上着の話をしていたときです」

「上着?」

 訝し気な顔をするテレサにセシリアは小さく頷く。

「あのとき話していた上着というのは、私がドリスの家に忘れてきたものです。しかしあなたの反応はどうもおかしかった」

『いえ。上着はどうしたのかって話になって』

『あら? 盗まれたのかしら?』

『え?』

『だって高価なものだったんでしょ?』

「その直前まで話していたのは、ディアナ嬢の遺体に関してだった。だから、あなたは上着と聞いて勘違いしたんです。私たちがディアナ嬢の上着がなくなっているのを話題にしているのだと。でも、実際は違った。だからその後のフォローもちぐはぐだった」

『そうだったの。ごめんなさい、ひどい言い方をして。……実は私、あの家で忘れ物をしたけれど、返ってこなかったことがあるから』

 おそらくとっさに言い訳として考えたものなのだろう。微妙な引っ掛かりは、テレサがディアナの話だと勘違いしていたと仮定すればすんなりと腑に落ちた。

 嬉しくはなかったが。

「着衣の乱れは話題になっていましたが、ディアナ嬢がボレロを着ていなかったという細かい情報まで公にはしていません。そこで疑いの目があなたに向いたんです」

「なるほどね。ボレロだけじゃなくて服も脱がそうと思ったけれど、上手く脱がせなくて苦肉の策で髪を切るのを思いついたの。髪は現場に持っていったもののボレロを処分したのは間違いだったわね。現場でまた着せるのはリスクが高いと思ったから」

 テレサは小さく笑う。自嘲的なものだった。セシリアは迷いつつも補足する。
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