剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「痛みはだいぶ引いたようだが、まだ安静にしておいた方がいいだろ。折れてはいないようだが、下手すりゃ背骨にヒビがいってる」

 ジェイドの物言いは相変わらずストレートで淡々としている。セシリアの顔がわずかに翳ったのを、ジェイドが目敏く気づいた。

「そんな顔するくらいなら直接、様子を見に行ったらどうだ? じゃないと、こちらの言いつけを破って無理矢理やって来るぞ」

「マイヤー先生!……と、セシリア!?」

 話の途中で別方向から声が飛んでくる。セシリアとジェイドが揃って目線を向ければ、そこにはドリスとエルザの姿があった。

 ドリスの元へはあの後、何度か見舞いに行き、真相も告げた。やはりドリスも何度かテレサの元で瀉血を行っていたらしい。

 健康と美貌のためと思っていたので、テレサの行為にかなりのショックを受けるのと同時に彼女を追い込んでしまったのではないかと罪悪感も抱いていた。

『外見でしか自分を好きにしかならない男ならこちらから願い下げしておけ』

 ジェイドの一言は効いたらしい。ドリスは瀉血はもちろん無駄な食事制限などもすっぱりやめ、前より顔色も健康的になっている。

 そしてドリスとエルザが、どうしてここに……わざわざアルント城にいるのかは容易に想像がつく。エルザは長い茶色の髪は下ろしたまま、くすんだ赤色のワンピースを着ている。

 ふたりの顔は驚きで満ち溢れていた。
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