剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「セシリアちゃん、その格好……」

 エルザの指摘にセシリアはここは城で、自分は団服姿だったのに思い至った。彼女たちに真実を告げていないことも。

 セシリアは素直に頭を下げる。

「黙っていてごめんなさい。騙すつもりはなかったんです。私はアルノー夜警団に所属していて……エルンスト元帥の副官をしているんです」

 その言葉にエルザは瞳を丸くさせた。ここに彼女たちがいるということは、ルディガーの立場は知っているのだろう。

「ですが、それだけの関係なんです。エルザさんは元帥のお見舞いですよね? ご案内しましょうか?」

「セシリアちゃん」

 改めて名前を呼ばれ、セシリアはまっすぐにエルザを見つめた。昔からルディガーの隣に立つ彼女はセシリアにとって憧れで、遠い存在だと思っていた。

 今は対等に目線を合わせられる。

「ひとつお願いがあるの。私、用事を思い出したから代わりにルディガーのお見舞いに行ってくれるかしら?」

 まさかの内容に、セシリアは言葉に詰まる。代わりにエルザが続けた。打って変わって神妙な面持ちで。

「……ごめんなさいね。あの人にも謝ったけれど、セシリアちゃんにも謝らせて」

「それは」

「あの人をこれからも変わらずに支えてあげてね」

 セシリアの言葉を待たずに告げると、エルザはドリスに声をかけ、その場を去っていく。

 ジェイドとセシリアは呆然と取り残された。

「で、どうするんだ?」

 ジェイドに促され、セシリアは床に視線を落とす。逸る鼓動を抑え、ようやく決意を固めた。
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