剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「お姉ちゃん!」

 今の今まで黙っていたドリスが城の出口に近づいたところで声をあげた。エルザは不思議な面持ちでドリスを見る。

「なんで用事なんて嘘ついたの? 彼のお見舞いに来たんでしょ?」

 エルザの言い分に、あの場でとっさに物申そうとしたドリスだが、エルザになにか考えがあっての行動なのだと思い至り、間に入りはしなかった。

「私じゃなくて見舞うべき人がここにいたからもういいのよ」

 エルザは茶目っ気交じりに答える。ドリスは当然、納得できない。ただ、セシリアと知り合いになった身としては、完全にエルザの味方だけもできない複雑さもあった。

『誰よりも幸せになって欲しいんです。そのために私ができることならなんでもしたいって思える人ですよ』

 あのときは、セシリアの言い分にドリスは諦めるのが前提だと苦笑した。でも別の角度から考えると、自分の気持ちが報われるよりも相手の幸せを願えるのは、強い想いがあるからだ。

 エルザは軽く目を伏せて、ルディガーとの会話を思い出す。

『私があなたにずっと会いたかったのは、謝りたかったからなの』

 セシリアと共にドリスを訪れたあの日、ルディガーはエルザに誘われ、家の周りを歩き始めた。そして裏手に回りかけたときに、エルザがふと切り出したのだ。

 突然の話題にルディガーは目を丸くする。エルザは悲しそうに笑って続けた。

『親友を亡くしたルディガーが無理をしているって、なんとなく感じていたわ。でも、私は怖くてあなたに踏み込めなかった。大丈夫そうに振る舞うあなたに甘えていたの』
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