剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 戦で親友を亡くし戻って来たとき、怖いくらいいつも通りを貫こうとするルディガーに、エルザは彼の本心に触れようとはせず、ルディガーは強い人間だから大丈夫だと自分に言い聞かせ納得していた。

 弱音を吐いてくれるなら受け止める気はある。でも、彼はそれをしなかった。

 そんな中、ルディガーはベティにセシリアが帰って来ない旨を告げられると、自分を置いてさっさと彼女を探しに行ってしまった。

 余裕のある彼の表情が一瞬で必死なものになり、それが腹立たしくもあった。彼女は彼にとって親友の妹で、師匠の娘であり、ルディガーがセシリアを可愛がるのは当然だ。

 とはいえ、それはあくまでも妹としてで婚約者は自分だ。そうやって矜持を保っていた。

 なのに、セシリアを探しに行って戻ってきたルディガーは憑き物が落ちたかのような顔をしていた。同じ笑っていてもセシリアに向ける笑顔は一段と穏やかで、特別な気がした。

 ああ、彼女は彼にちゃんと向き合ったんだ。彼の奥底に閉まってある部分に手を伸ばしたんだ。

 そこではっきりと嫉妬を自覚した。妹のようだと言い聞かせていたのはルディガーではなくエルザ自身だったらしい。

 それらの複雑な感情が合わさり、わざとあてつけるようなことを口にした。彼女も当時は十七歳で、賢く立ち回る術を持ち合わせていなかった。

“ルディガーがセシリアちゃんを気にするのも理解しているわ。後ろめたさでそばにいてあげないとって思う気持ちも”
< 180 / 192 >

この作品をシェア

pagetop