剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
『後ろめたさであなたがセシリアちゃんのそばにいるわけじゃないのもわかっていたわ。でも、認められなくてあのときはああいうふうにしか言えなかった』

 懺悔するかのごとくエルザは綺麗な顔を歪めて声にしていく。

『あんな別れ方をして後悔していたの。ごめんなさい、あなたの支えになってあげられなくて……』

 弱くなる言葉尻にルディガーはきっぱりと言い切る。

『謝らなくていい。それを言うなら、俺も謝るべきだ。君の申し出に曖昧な言い方で返して、長年の関係を終わりにしたことを、申し訳なく思っている』

 ルディガーは改めて真正面からエルザを見つめた。

『ごめん、エルザ。あのときは、まだ自覚していなかった。でも俺がそばに置いて、必要としているのは……命をかけて守っていきたい存在は君じゃないんだ』

 ショックではないと言えば嘘になるが、エルザの胸につかえていたものが取れて晴れやかになっていくのも事実だ。

『君の幸せを心から祈っている。昔も今も、この気持ちに偽りはない』

『……うん。ありがとう』

 やっとルディガーの本音が聞けた。相手が誰かなど確認するまでもない。長年の肩の荷が下りて、エルザはそっとルディガーに身を寄せた。

 これが最後だ。それをルディガーもわかっているから彼女に背に自分の腕を回して抱き留める。

 一連のやり取りを噛みしめて、エルザはドリスに微笑んだ。

「ようやく罪悪感からじゃなくて、あの人の幸せを心から願える。これでよかったのよ」
 
 再び歩を進めるエルザにドリスはそれ以上、深くは聞かなかった。今のエルザは心なしか嬉しそうだったからだ。
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