剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
『私はその前からずっとあなたを想ってましたよ』

 言葉を失っているルディガーをよそに、セシリアはさっさと彼の腕から逃れベッドから腰を上げた。改めてベッドサイドに立ち、ルディガーに向き合う。

『だからまだ音を上げないでくださいね。ジェイドの指示に従っておとなしくしていてください』

 いつもの余裕ある副官の笑みを向けられ、ルディガーは肩を落とした。上手くかわされたのを嘆くべきか、思わぬ彼女の告白に喜ぶべきか。

 さすがに思うところがあるのか、セシリアからフォローが入る。

『……これからは、極力顔を出すようにしますから』

『それは副官として? それとも恋人として?』

 すかさず切り込んできたルディガーにセシリアは苦笑した。

『どっちもですよ』

 そう言うとセシリアはベッドに身を乗り出し、自分から軽くルディガーに口づける。さっきの口づけを中断された以上にルディガーにとっては予想外の彼女の行動だった。

『私はあなたのものなんでしょ? 心配しなくてもどこにも行かないから、早く元気になってね』

 穏やかに笑ってセシリアは部屋を後にした。ルディガーは残る余韻に盛大なため息をつく。

 これは、色々とあれだ。自分の身は持つのだろうか。

 口元に手をやり項垂れていると、部屋にノック音が響く。顔を出したのはスヴェンだ。

『調子はどうだ?』

『天国と地獄を同時に一気に味わった気分だよ』

『はぁ?』

 訳がわからないと怪訝な顔をするスヴェンを無視して、ルディガーは笑う。どうやら、これから振り回されるのは、おそらく自分の方だと確信した。でも悪くはない。
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