剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
素顔に問う
 ホフマン卿の夜会から数日後。ルディガーは城の執務室にていつもの机に向かい、厳しい表情で書類を見つめていた。そして目の前の副官に視線を移す。

「本当に行くのかい?」

「ええ」

 セシリアは短く答える。ルディガーは深く息を吐くと書類を机に放り投げ、指を組んで彼女を見つめた。

「……あの男はセシリアが俺の副官だって気づいている」

「私もそう思います」

 ふたりが話しているのは夜会で出会ったアルツトについてだ。ルディガーは彼とのやりとりを回想する。

「最初に俺が声をかけたとき、彼は迷いなく『ここで彼女になんの用だ?』と聞いてきた。初対面ならまず自分に用があると思うか、その旨を尋ねるだろう」

 しかしアルツトはなんの疑いもなくルディガーがセシリアに用事があってあの場に来たのだと確信していた。それに他にも思い当たる発言がいくつかある。

「純粋な招待客ではなく、我々にわざと接触してきたのなら、彼の目的は一体なんだ?」

「それを今から本人に聞いてきますよ」

 当然と言わんばかりに話をまとめるセシリアにルディガーは眉を寄せた。ルディガーが見ていたのはウリエル区の地図とある人物についての詳細だった。

「彼は私が尋ねて来るのを見越しています。そのためのヒントもわざと残したくらいですから」

「奴の思惑通りに動くのは癪だな」

 ルディガーはまだ納得できていない面持ちだが、セシリアは先ほどから表情ひとつ変えない。
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